■少年野球指導者の皆さんにお願いです! 野球肘の早期治癒を目指して
− 2005/08/13 −
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甲子園では炎天下の中、高校球児が熱い戦いを繰り広げています。小・中学生の野球少年たちも未来の活躍を想いながら練習に励んでいることでしょう。しかし、成長期の子供にとって未完成の骨格で体力以上の練習を繰り返すことは、様々な痛みや障害を引き起こし、結果として競技の妨げになることも少なくありません。少年野球の選手を対象とした調査でも、47.2%が肘の痛みの既往歴があるとの結果が出ています。
野球によるスポーツ傷害は、繰り返す投球動作に伴う肩・肘関節の障害、腰の障害、スライディング時等の接触による下肢の外傷が特徴的ですが、その中でも今回は投球動作による障害、特に軟部組織だけではなく骨・軟骨にも影響が大きい、いわゆる野球肘についてお話します。
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投球動作は、大きく4相(5期)に分けられます。
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野球肘は主に内側・外側・後方の3型に分類されます。投球動作のうち特に加速期には、肘関節内側の腱・靭帯は引き伸ばされ、外側の関節面には圧迫と回旋が加わります。また、フォロースルー期においては急激に肘が伸展し、肘頭部と肘頭窩が衝突します。このような非生理的なストレスが繰り返されることにより、肘関節の構成体(関節軟骨、靭帯、筋腱、神経など)に障害が発生します。内側では、屈筋腱付着部の炎症や靭帯損傷、外側では上腕小頭・橈骨頭障害、後方では肘頭部での障害が多く見られます。
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A:加速期には、内側の腱・靭帯は
引き伸ばされる。
B:加速期には、外側の関節面に
圧迫と回旋が加わる。
C:フォロースルー期においては
急激に肘が伸展し、肘頭部と
肘頭窩が衝突する。
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主な野球肘
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一般に骨・軟骨が力学的に脆弱な時期(11〜13歳頃)では、骨性安定性が大きい肘関節の骨・軟骨にストレスが加わり、障害が生じやすいため、上腕小頭障害や内側上顆の離開などの野球肘が発生しやすいとされています。一方成人では、骨・軟骨は力学的に強くなり、腱・靭帯の付着部をはじめとする軟部組織の損傷が中心となります。成長期に生じた障害からの遊離体や変形性関節症といった二次的な障害を合併することもあります。
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≪治療の原則≫
まずはその病態を投球のメカニズムを含めて正確に把握し、治療の計画を立てることが重要です。痛み以外の症状としては、関節の可動域制限に注目することも大事です。関節の可動域制限は、関節軟骨の障害によることが多くなりますので、可動域制限が見られる場合は投球の完全中止が必要になります。
・野球肘(離断性骨軟骨炎)のエコー検査画像
痛みが出て間もない初期の段階や、比較的早い進行期では投球の完全中止により、形態的にも機能的にも完全に修復することが多いのですが、投球を続行した場合や発見が遅れた例では遊離体の摘出や離断骨片の固定など、手術が必要になる場合もあります。
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いずれも保存的治療が第一選択肢ですが、理学療法で症状の改善が見られない場合や関節内に骨の遊離体がある場合などは手術適応となることが多くなります。初期治療が大切ですので、肘に痛みを訴えた場合は早期に医療機関を受診するよう指導して下さい。
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また練習上の注意ですが、野球は"投"だけではなく"走" "攻"もあるため、障害がどの程度の悪影響をもたらすのかを判断し、肘の安静期間に、打撃・守備・ベースランニングを指導するなど、練習メニューの工夫も必要です。障害の程度によってはポジションの変更などを考慮することもあるため、まずは早期の治療と十分な安静、また手術に至らぬよう、しっかりとした経過観察が大切です。
当院での治療例はこちら ≫BEC療法治療例
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推薦図書
野球肩・野球ひじを治す本―“甲子園史上最も美しいフォームの投手”が指導
川島 堅 著 マキノ出版
親子で学ぶ「子どものスポーツ障害」―イラスト詳説 予防と治療
佐田 正二郎、佐田 正樹、田辺 義明 著 現代書林
150キロのボールを投げる!―速い球を投げるための投球技術とトレーニング法
竹内 久外志、花岡 美智子 著 ナツメ社
心に火をつけるkidsコーチング 投手編 手塚 一志 著 ベースボールマガジン社
投手のための筋力トレーニング 立花 龍司 著 日刊スポーツ出版社 絶対うまくなるバッティング―確率を高め距離が伸びるスイングづくり
田尾 安志 著 日本文芸社
野球89のセンス上達法―いいフォームを身につける! 高畑 好秀 著 池田書店
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